ロシアとウクラインの事に関しては、個人のフェイスブックでは、色々と書いてきた。
ただ、一つ、この件に関して、やはり書きたい事がある。
それは、神よ、プーチンを、ロシアの指導者を救いたまえ、という事である。
独裁者を描いた話としては、アンデルセンの「裸の王様」があまりにも有名だ。
「風の谷のナウシカ」で宮崎駿がヴ王を、素晴らしく描いていたりもする。
ここで、ある話を紹介したい。
もう今や、あまり知る人もいなくなったかもしれない、フランスの19世紀後半の作家、マルセル・シュウォッブの「黄金仮面の王」という精々20ページ程度の短編がある。
いずれも仮面を被る50人の道化、50人の神官、そして多くの妃達に囲まれ、威厳にみちて気高く王者に相応わしい黄金の仮面をつけた王の話である。長く続く王朝の黄昏の一人である。
ある日、一人の乞食がくる。そして、それをきっかけに、王は黄金の仮面を外し、池の水面に移った自分の顔を見る。そして、知るのである。自分が癩病持ちの家系であり、それを隠すが故に仮面をつけているということを。
怒りに狂う、そして恐れに震える王は、道化や神官の仮面を外す。太った笑い好きの神官、悲しげな憂いに沈んだ顔の道化。
悲しみ、絶望する王は、自分の目を潰し、城を出て彷徨う。
そして、鈴の音を聞き、一人の少女に出会う。王は、全てを失い、ただその少女との出会いに感謝し、死ぬ。癒されて。
クリスチャンの私としては、王は目を潰し、彷徨う中でイエスに会ったのだと解釈する。
プーチンが、ロシアという国の大統領を勤めてもう22年になる。世界中の本当の意味での国家指導者でこれだけの年数を務めているのは、カンボジアのフンセン首相、ベラルーシのルカシェンコ大統領ぐらいしかいない。現代における22年間の王位というのは、昔における40年や50年に相当するか。それは、もう唐の玄宗皇帝やムガール帝国のアウラングゼーブ並みである。二人とも治世を全うは出来なかった。清の康熙帝は、確かにそれ以上ではあったが。一体、この22年という長い治世の重みは、どれほどのものか想像もつかない。
今回の戦争は、間違いなく、プーチンの世界観の中では、敗戦に向かい合い、もう一度、窮乏の中から歩き出そうとした自分達を受け入れないばかりか、時間をかけてここまで追い込み続けたアメリカが悪い、ということだろう(そして、残念なことに、それはかなり真実でもある)。したがって、彼らが、今回、選択をした戦争を起こすという選択肢は、プーチンにとっては正義でしかないのであろう。
ただ、22年間の治世、そしてソ連の世界観を引き継ぐ彼の周りには、彼の黄昏の王朝には仮面をつけた50人の道化と50人の神官しかいなかった。
ここまで長引く戦況になるとも思っていなかったのだろう。
将軍達を更迭し始めているそうだ。
プーチンが仮面を剥がし、自分の顔を見る。どうすれば、それが起こるのだろうか。
人の身では、何が善なのか悪なのかはわからない。それは神のみが決めることである。
私は、昔、リプラスという会社をやっていた。誇るべき事業を営み、瞬く間に巨大な企業になった。しかし2008年に潰された。あがらうことの出来ない大きなものに潰されたという感じだった。法的整理を申し立てる前の深夜、私の豪奢な南青山の部屋で(一人暮らしだったので部屋自体は小さかったが)、1脚3−4万円もするロブマイヤーのワイングラスを割った。
パリン、パリン、パリン。
ロブマイヤーの上等な薄いガラスは、綺麗な音を立てて割れた。
パリン、パリン。パリンパリン。
10脚も割ったら気持ちは落ち着いただろうか。
2億人近い民を持つ国を、その敗戦後から22年間も率いる辛さは、想像を絶する。
神よ、孤独に押しつぶされ、恨みに固まり、暗闇の中にいるプーチンとロシアの指導者達を救いたまえ。
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マルセル・シュウォッブの翻訳は、王国社から出ている多田智満子訳「少年十字軍」と国書刊行会「マルセル・シュオッブ全集」の二つが手元にある。やはり多田智満子さんの訳がおすすめです。
祈らんでいいから注文したもん作れや!
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